碧の記憶、光る闇
碧の突然の昔話に夏美は鼻をすすり涙に濡れた顔をあげた。

「その時思ったの。ああ、この人は私を守ってくれる、私を愛してくれてるんだって…」

思い出しながら話すうちに気持ちが高ぶってきて碧は言葉に詰まった。夏美に対する数え切れないほどの想い出が沸き起こるようにあふれてくる。

「思い出したわ、あの時はむこうが、いきなり怒鳴ってきたからこっちも売り言葉に買い言葉でね…そんな古い事よく覚えてたわね」

「あの日から私はお母さんの子供になったの。沖田碧になったの」

「たしかに最初、あなたは死んだ碧の代わりだった…それは隠さないわ。顔もよく似てるし、碧が私の所に帰ってきたって思ったわ。でもあなたはあなたよ…あなたは誰の代わりでもないし誰もあなたのかわりは出来ない。誰も碧にはなれないのよ…だから何処にも行かないで…」

夏美の言葉が終わらないうちに碧は母の胸に飛び込んでいた。

幼い子供のように声をあげて号泣する。

その肩を肇が、そして和哉が抱きしめた。

ＤＮＡより堅く確かな絆で結ばれた４人は涙で顔をくしゃくしゃにしながら時を忘れていつまでも抱き合っていた。
< 87 / 111 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop