光が見えるまで
しばらく移動しながら談笑をしていると突然雅輝が車椅子を押すのを止めた。
『雅輝?どうし…』
私の言葉は続かなかった。
いや、続けることができなかったという方が正しいかもしれない。
何故なら扉の開く音と同時に勢いがあって微かに花の香りがする気持ちいい風が体中に当たり、瞼の裏に今まで見たことのないような光が飛び込んで来たからだ。
『着いたよ。けっこう綺麗な所じゃん。ご感想はいかがですか?お姫サマ』
最後の方を軽く笑いながら言った雅輝だったがそんなことは気にならない程に私は閉じた瞼の奥から溢れ出て来るモノを止めることが出来なくなっていた。
『えっ!?ちょっ、茶歩?どうかしたのか?』
私は雅輝の言葉でやっと自分の世界から戻ってきた。
『ぁっ、ごめん。ちょっと感動しちゃって…目が見えなくてもこんなにこの場所が素敵な所だってわかるんだね!なんかずっとここに居たくなるなぁ…』
私は雅輝に微笑みかけながら涙を手で拭った。
『…じゃあ目が見えるようになったらもっと感動するんだろうな。なぁ茶歩。俺、茶歩に話しておきたいことがあるんだ…。俺は……茶歩に目の手術して欲しいんだ。』
『えっ?何で手術のこと雅輝が知ってるの?』
誰にも話したことがないのに…
私が考えていると、
『…ごめん、前に茶歩と看護婦さんが話しているのを偶然聞いてしまったんだ…。手術が失敗するかもしれないって思うのは仕方ないと思う。でも…俺は茶歩の目で直接俺を見て欲しいんだ。』