初夏の香り、君の気配
「夏凪、もう試験終わったから、大学はしばらく講義ないわよね?」
まだ話し中らしい受話器を片手に、母が私に問う。
「うん、まぁ……課題はあるけど…」
「じゃあ悠浬の所へ手伝いに行ってくれないかしら。バイトの人手が足りないらしいのよ。」
悠浬とは、母の2歳年下の妹だ。
「悠ねぇの所?行く行く!!」
私は二つ返事でOKした。
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悠ねぇこと、悠浬さんは、旦那さんと長野で避暑客を対象としたペンションを経営している。
まだ7月に入ったばかりだが、ペンションの営業もそろそろ本格化するらしい。
今私が住んでいるごちゃごちゃして人がひしめく都会よりも、私は静かな湖畔にある悠ねぇのペンションの方が好きだった。
なので私は、生まれてこの方ほとんどの夏を悠ねぇたちのもとで過ごしているのだった。