初夏の香り、君の気配


だんだんと民家が減り、木々や山が増えてきた車窓に目をやりながら、私は人がほとんど乗っていない2両編成の電車に揺られていた。


客らしい人は周りには1人も乗っていないらしい。


約1週間分の荷物の入ったスーツケースを足元に、私はただただ新緑が眩しい見慣れた長野の山々を眺めていた。






──────………
───………


─…くん、かえっちゃいやぁ!!


─かなちゃん…


─まだかなとあそんでよお!!


泣き喚く私の前に居るのは、大きな瞳に涙を溜めて、私を見ている男の子。


─ほーら、かな。困らせちゃダメよ。
また来てね。

彼の服の袖口をギュッと掴んで離そうともしないで、駄々をこねている私の肩に、悠ねぇの白い手がそっと触れた。


─また、ぜったい、くるよ。


私の前に居た男の子は、急に顔をあげ、キッパリと言い切った。


─…、ほんとに?

─うん!やくそく!!

私の目の前に、小さな小指が差し出された。

その小指に、私も自分の小指を絡ませる。






──"やくそく"!!──


その後、彼はゆっくりと私から離れて行った。



周りを取り囲む木々の鮮やかな緑色と、爽やかな風に揺れる彼の髪の柔らかな茶色だけが、
心に残った───


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