ライナーアンドザ・スカイ
「ねぇ、ナル元気?」
優香ちゃんは言いにくそうに眼を伏せた。
やっぱり成瀬に会いに来たんだ。
「元気だよ。会っていく?」
この表情は、まだ好きって顔なのかな。
「成瀬なら……」
「秋山くん?」
言いかけてハッとした。
背後からかけられた声で、今の状況を思い出した。
成瀬、これから告白するんだった。
優香ちゃんがまだ成瀬を好きだとしたら、これちょっとした修羅場だよ。
「先輩……」
「そのこ、他校生だよね?」
どうしよう、というように俺の後ろに隠れる優香ちゃん。
「あーちょっと、知り合いに急用らしくて。中学の頃の同級生なんですけど……」
ああ、俺って嘘が下手だ。
嘘っていうか、これじゃあオブラートに包んでるだけだし。
「そうなんだ。別に先生に突き出したりしないから怯えなくていいよ?
会長のわたしが許す!」
特上の笑顔で優香ちゃんを安心させようとする会長。
そして安心したのか俺の前に出てきた優香ちゃ……
「あなたが、会長?」
……顔が安心してない。
これは戦闘態勢の顔だ。
「そうだけど」
会長もつられたのか少し厳しい顔になった。
まさか成瀬のやつ、誰のことを好きになったのかまで教えたのかよ……
「あたし」
パシーン!
「負けないからっ」
そのとき俺の目に映ったのは、
涙目で肩を震わせている優香ちゃん
突然の平手打ちで頬が赤くなった会長
最悪のタイミングで校舎の角から出てきた成瀬、この三人が三者三様の表情を浮かべている光景だった。