ライナーアンドザ・スカイ


その唇がわずかに動いて、三つの音を形作った気がした。


声にはならなかったのか。

聞こえないほど小さな声だったのか。

何と言ったのかはわからなかった。


そのまま見つめていると今度は小さく呻き、俺は慌てて体をどけた。


「先輩?」


起きそうな気がして声をかけた。

思ったとおり瞼が持ち上がる。

会長は手をついて体を起こした。


「あれ、煙草……」

「あ、どうぞ。寝たまま持ってたら危ないと思って」

「ああ」


手を出した会長に煙草を差し出す。

指先が微かに触れて、俺は煙草を手放した。


「夢でも見たんですか。何か寝言を……あ、聞いてませんよ。聞こえなかったというか」

「先生に、煙草取り上げられる夢だった」

「それは夢でよかったですね」


恥ずかしげもなく大きくあくびをした会長。

これじゃ雰囲気とか何もないけど。


言うなら、今だろ。


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