花言葉



「…あ、お久しぶりです」



彼は爽やかな笑顔でそう言ってくれた。

覚えててくれたんだ。


胸が温かくなるのが自分でもよく分かる。


「…お久しぶり、です」


どういう訳か妙に緊張してしまい、言葉を発するのにも勇気がいる。


何とかそう答えると彼は店内の花を見始めた。



「え、亜実知り合いなの?」


彼には聞こえないように声を潜め、愛が尋ねてきた。


「この間愛がタカヒトくんとショッピング行ってたときに来たお客さん」


私がそう言うと、愛はすごく悔しそうな表情を見せた。


「いいなー、超イケメンじゃん!」


どうやら愛は彼を気に入ってしまったようだ。

私がここ1週間ずっと彼のことを考えていた、とは愛には言えないな。



「あの、すみません…」


彼は申し訳なさそうな表情でレジへと向かってきた。


「はい!何ですか?」


愛が張り切って答える。


「ゲラニウムジョンソンズブルー…って花、ありませんか?」


彼はそう尋ねてきた。


「ゲ…?ゲラニウム…?」

まるで聞いたことのない名前の花に、愛は戸惑ってるようだった。



「さすがにありませんよね?」


彼は苦笑しながら私に尋ねた。


「はい、申し訳ないです…当店にはゲラニウムジョンソンズブルーは置いてないですね」


その花は、個人的に好きな花だから知っていた。
紫色の小さな花だ。


確か花言葉は……。
あれ、何だっけ。忘れてしまった。



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