花言葉
「あ、本当はそんな悲しいことを言いたいんじゃなくて」
彼の笑顔はまた明るいそれに戻った。
表情が、忙しなく変わる人だ。
「ミセバヤの花言葉を華原さんに伝えたくて」
「花言葉…ですか?」
「ミセバヤの花言葉は、平穏、安心なんです」
「そうなんですか?」
彼は何を伝えたいのか、その時はまだよく分からなかった。
「華原さんはミセバヤの花のような方です」
「…え?」
「あなたと一緒に居るとなんか安心するんですよね」
どうしよう。
胸の、高鳴りが止まらない。
「…あ、りがとう…ございます…」
声が震えてしまっているのが自分でも分かった。
動揺している。
「いいなー、亜実」
隣でそう呟いた愛に、杉本さんは言った。
「今度本條さんにぴったりな花見つけてきますね」
愛は幸せそうに笑った。
「今日はそれだけなんです。すみません、何も買っていかなくて」
彼は顔の前で両手を合わせた。
「じゃあ、また来ます」
そう言ってくるりと背を向けた彼を私は引きとめていた。
「杉本さん!」
彼は目を丸くしながら振り向いた。
「何ですか?」
「…カルミアっていう花があるんですけど」
私の言葉に彼は不思議そうな表情を見せた。
「カルミアの花言葉は大きな希望、さわやかな笑顔なんです」
「…いい花言葉ですね」
彼は微笑んだ。
私も、微笑んだ。
「杉本さん、あなたはカルミアのような方です。
あなたのその笑顔からは大きな希望をもらえるんです」
柄にも無いことを言っているのは自分でも分かっている。
でも口が勝手に動いていた。
「すごく嬉しいです、ありがとうございます」
彼は、本当に、本当に綺麗な笑顔を見せた。
何故か涙が出そうだった。
彼が帰った後も、しばらく心臓の高鳴りは止まらなかった。
「ミセバヤ」
花言葉 平穏、安心
「カルミア」
花言葉 大きな希望、爽やかな笑顔