宵闇
簡単に身支度を整えると、再び唇を重ねる。


残り短い時間を、惜しむかのように。


『また、連絡する』


彼が耳元で囁いた。



その言葉はまるで、ゲームセットを告げるホイッスルのようにあたしの耳に届く。


「待ってる」


精一杯の笑顔でそう答えると、助手席のドアを開けた。



あたしたちの時間が、空気が、一気に湿った空間へ溶け込む。


もう、振り返っても何もない空間に目を向けたくなくて、目を伏せたままドアを閉めた。


小さく手を挙げる彼に、頷きで答えると自分の車へ走る。


運転席に滑り込むと、静かに、静かに、静寂があたしの周りを支配してゆく。




言いようのない虚しさ。


これは、さっきまでの罪に溺れたあたしへの、天罰なんだ。

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