宵闇
遠くに見覚えのある姿。

ほかの人より、1つ飛び出た頭。

見間違えるはずもない、彼の姿だった。



こんな偶然に、心が躍る。

その先にある絶望に気づくはずもなく、彼の頭だけ見つめて人込みをかき分けた。



彼まであと数メートル。


そこで、あたしの足は止まった。




彼の隣で笑う女性。

彼の腕に抱かれ、眠る子供。


幸せな家族の縮図が、そこにあった。

そして、あたしの視界に、否応なしに飛び込んできた。



ゆっくりと縮まる距離。

高鳴る鼓動。



彼も、あたしに気づいた。

一瞬、目があった。


でも。


それはすぐにそらされ、そして立ち止まるあたしのことなんて見えてないかのように、あたしの隣を彼は過ぎて行った。


まるで、時間が止まったみたいにあたしはその場から動けなかった。

込み合った店内。

あからさまに邪魔そうな視線を向けられても、動けなかった。

何も、考えられない。





そのあとはどうやって家に帰ったのかよく覚えていない。


ただ、気づいた時には、部屋の中が宵闇に支配されつつあった。


何時間も、ただ、うずくまっていた。








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