切なさの距離~友達以上、恋人未満~
「でさ、中2の大会のときちょうど、離婚するかどうかでうち、大モメで。
大会どころじゃなかったんだ。」
突然始まった重い話に日向は動じず、黙って聞いている。
「ケガはそのとき、もう全回復してた。
だから、今年こそ絶対全国行くんだ、って気合い入れてたんだけどさ。
親の離婚に巻き込まれて。
なんで俺が、って思ったけどでもオカン、そのときボロボロだったんだ。
別にマザコンじゃねぇーけど、でもやっぱりオカンが泣いてる姿見てるのはどうもイヤで。
俺が守ってやんないと、って気持ちになったんだ」
いつもオカンは笑っている。
でもあの時は泣いてばかりだった。
細い背中を震わせて、寝ている俺を起こさないようにと声を押し殺して泣いているオカンの姿を今でも忘れられない。
「湯川ってさ、冷めてるように見えるけどホントはすごくいいヤツなんだね」
日向は恥ずかしげもなく、そんなことを言う。
少しくすぐったかったけど、俺は続けた。
「離婚の原因っていうのがな、ありきたりなんだけど親父の浮気だったんだ。
オカン、親父のこと大好きでさ。
見てるこっちが恥ずかしくなるくらい、ベタベタしてて。
でも、その親父に裏切られて。
浮気が分かってすぐに別居したんだけどな。
オカン、毎日泣いてんだよ。
この間会ったとき、そんなふうには見えなかったろ?」
そう聞くと素直に日向は頷く。
「母は強し、って言葉あるだろ?
俺、その通りだと思った。
あれだけ毎日泣いてたのに離婚して1週間もすると今までのことがウソみたいに毎日笑ってて。
そのうちにパートも始めてさ。
大人って、母親って強いな~って俺、痛いほど感じた。」