____苺の季節____
暗くなり、虫の声があちらこちらから聞こえる道を、手を繋ぎ歩いた。


街の賑わいは、もうすぐそこ。


「杏奈、サンキューな」


「ん?何が……?」


「母さんさ…ホントは…、

いや、いい…、

色々……、サンキュー」



あたし、その先の言葉を、
お礼の本当の意味を知りたくなくて、

ううん、きちんと受け止めるのが嫌で心が拒絶した。

あたしの心が少し色を失う。


あたしは、足に馴染む赤い鼻緒の下駄を見つめながら、

夏風が通る浴衣の袖を、逞しい鳴海の腕に寄せた。


ダイジョウブだよ…。


そんな想いを込めて、大きな手を握るしか出来なかった。


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