____苺の季節____
そして、ぐっと近づくと囁いたんだ。


「ねぇ、杏奈、俺と付き合わない?」


な、何を急に言い出すの?

さっき会ったばかりだし、

か、顔、近いし!



返す言葉も見つからない。


ふぅ、あのね、あたし、軽い男はキライよ。


そう口から出るはずだった。


それなのに、

何かが右の頬に触れた。



今、

唇が触れた?



え!

キ、キ…ス?


キスされた!?



頭の中は真っ白。


バシーン!


「痛っ」


アイツが左側の頬を擦る。

あたしの手のひらもビリビリした。


「大っ嫌い!あんたなんかキライ……」


悔しいのか、悲しいのか分からないけど、涙が溢れてくるよ。


やだ、もう。


あたしは体育館を飛び出した。


何やってるの?

恥ずかしい。



泣くようなことじゃない。


わかってる。



あんなこと、平気。

平気でしょ?

平気?



右の頬に残る感触。



平気なわけないじゃん。



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