____苺の季節____
「や、彰先輩?ちょっと何するんですか?って、フルスコアを丸めないで下さい、あたし達楽譜係が全員分一生懸命コピーしたんですからね」

つい憎まれ口を叩いたあたし。

「おう、悪かったな、それより杏、寝不足か?顔色悪すぎ」

フルスコアをメガホンみたく口に当て、あたしの耳に響かせる。


「元気ですよ…!顔が白いのは元からだし、気にしてるのに、そうだ!氷タオルとキンカン取って来ます」

西村先輩から教わった眠気覚ましを早速試す時が来たんだと張り切って席を立つ。

「待てって」


呼び止める彰先輩の声を振り切った。


医務室の冷凍庫から出したタオルは痛いほど冷たくて、キンカンは予想外の強烈な刺激に涙が止まらない。


「お前は馬鹿か」


背中から呆れた声。


「貸せって塗りすぎだ馬鹿」

彰先輩はあたしの顔を押さえて指で拭った。

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