____苺の季節____
「ち、違います!ケンカなんてしてません、色々あるのはホントだけど……って嘘?

み、見て…たんですか?電話してる所、それに合奏中も……、やだな」


見られてたと知って急に顔が熱くなったから、ふざけて誤魔化した。


「悪…かった…な?すまん、でも見てちゃ駄目かよ?俺、いつも見てんだ杏の事、ってか仕方ねーだろ、自然と目が行くし、だって俺は……」


嫌だ、その先は言わないで欲しい。そんな目であたしを見ないで…先輩。何かを警戒した。


「ごめん、いや…い、良い、何でもない…、大丈夫なら良いんだ、でも無理はするなよ?

寝不足ならマーチング練習休め…、貧血起こして倒れたら大変だ、な?」


あたしの髪をふんわり撫でた。


「は、はい、有り難うございます…、無理はしません」


「そうだ、やっと笑ったか…、よし!行くぞ…、合宿はこれからだ」


にこにこ笑う先輩は、CMに出てくるアイドルみたいだと思った。


「おい、杏、何見てんだ?そんな人形みたいな顔して」


「やー、人形じゃない!馬鹿にしないで下さい」


「え、可愛いって事だけど?」


「もう、ばか!知らない」

先輩の腕をバチンと叩く。

「バカって何だよ、先輩に向かって、まぁ良いや、そうやってお前が笑うなら」


この感覚は覚えてる。

あの優しさ…に似てる。



「星さん?」って隣の席の紅林君があたしを呼んだ時、「何?」と笑うと少し驚いた顔をして、それから優しく笑って言ったんだ。

「いや、星さんが笑ってるなら……、いい」

そして急に話題を変えた。
「そうだ、昨日のドラマ見た?あれってさ―」


詩織ちゃんが、「紅林って杏奈ちゃんだけに丁寧だよね…、うちらに対する態度と違う、皆の事は呼び捨てにするのに【星さん】って呼ぶし、接し方がソフトだよね…」


「知ってる、紅林って分かりやすい、ファイト…ドンマイ」

章子ちゃんが言うと「余計なお世話だ、章子」紅林君が言ったっけ。


その優しさに気付いて、胸が切ないあたたかさに締め付けられたのをよく覚えてる。

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