____苺の季節____
合奏室となっている体育館に戻り、椅子の上に置いてたトロンボーンを持ち上げ座ると視線を感じた。

にこやかに里ちゃんと西村先輩が見つめる。

え?な、何だろう。


違和感を消すように、溜まってもいないのに水抜きをした。そして、フルスコアの蛍光ペンで引いたトロンボーン2ndの部分を見つめ、イメージトレーニングをする。


赤色のボールペンで注意書した文字『テヌートしっかり』、クレッシェンドは青色のペンで三重に囲まれてる。


村井先輩が指揮台に上がる。

はりつめた緊迫感と、様々な指示を譜面に書き込むペンの音。


「はい、じゃさっきの続き【H】、はい、フルート、オーボエ下さい」


柔らかな旋律を唄う木管楽器が、切ない愛を描いたオペラ楽曲を奏で、憂いや喜びを表現する。

クラリネットやホルンが重なり、パーカッションが壮大な奥行きある映像さえ想わせる。

愛を奏でるハーモニーは深いな。

次第にパートが増えエネルギーを強めヒロインの歌声が響き渡るよう…。


1人ひとりの音色がひとつになる美しく重厚な響きは、音の波に酔いしれそうになる。


あたしはこの瞬間が好き。

この尊くさえ思う響きの中にいつまでも居たいって……、そう思う瞬間が沢山ある。


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