____苺の季節____
「おっと…、お疲れ様でーす、みちる先輩達、恒例の差し入れ有り難うございます」


「あ!彰くん、お久しぶり、相変わらずイケメン!
しかも若いから綺麗!

毎日、オジサンばっかり見てるから」

「私も―」


OBの男性陣がぼやく。

「うるせーって、お前らもオバサンだろう…毎日、見る顔に向かって辛いとか言うな」


彰先輩があたしに耳打ちした。


「この2組、夫婦でOBなんだ」


「おー、彰…、さてはお前らもデキてるな?」


「いいえ、慎吾先輩、残念ながら違います…、あ、杏…、先生に慎吾先輩達が来たと伝えて…、部員はグラウンド集合ね」


早く行けと目配せする。


「で、でも…、スイカ、切りましょうか?」

「いやーん、気が利くのね…、でも、そこは私達お姉さんに任せて!一応主婦だから、

ほら、花火沢山あるから皆で楽しんで、

合宿キツイでしょう?息抜き、息抜き」


「だから、お前らはオバサン」


キーッと引っ掻きそうなポーズで慎吾先輩に向かって行くみちる先輩。


女性陣に解放された彰先輩が、くるりとこっちを向きあたしを見る。


夫婦か。


冗談を言い合いながらもその間に流れる雰囲気は、大人しか解らない愛かな。


恋もまだ駆け出しのあたしは、不思議な気持ちで一杯になった。


鳴海と交わした淡い約束を思い出して、あの海の音と、鳴海の笑顔が浮かぶ。


ずっと、声を聞いてない。あの日から。


「杏?」


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