____苺の季節____
「え?あ、いや…、何でもありません、先生の部屋に行ってきますね」


笑いながら少し早口で言い、急いで階段を目指す。


「ちょ…、待てって」


彰先輩は、あたしを軽々追い越して前に立った。


「どうして?先輩が行けって言いましたよね」


「言ったけどよ、杏がそんな顔してっから…」


「そんな顔?やだな、変な彰先輩…、ほら、あたし、先生の部屋行きます、先輩は皆に花火大会するぞって言って来て下さいよ」


くるりと背中を向けさせてぐいぐい押した。


「わかったから押すな、杏…、お前よ、一人で泣くなよ、なんか色々色々抱え込んでそうだからよ」


バカ、バカ…、彰先輩のバカ。


現実逃避と切なさでごちゃ混ぜのあたしに優しくしないで下さい。


彰先輩の優しさを受けちゃいけないの知ってるから。

優しくしないで下さい。

「何それ、やだな、からかわないで下さいって」


明るくふざけた言葉を置き去りにして、先生の部屋まで一気に階段を上がった。
< 172 / 180 >

この作品をシェア

pagetop