____苺の季節____
あたしは、

息の仕方を忘れたのかと言う程、

胸が熱くなった。



「く、くれ…ばやし君?」



鏡越しに会話してたあたし達。


紅林君は、少し、歩み寄り、背中からあたしをふわりと包んだ。


長い両腕は優しくて、力なんか入れてない。


「ごめん、少しこのままでいさせて?」


あたしの髪に顔を埋めるみたいに、体を寄せる。


首の辺りに伝わる呼吸。


そっと、そっと抱き寄せる仕草や大きな温もりに、
優しさを感じてしまうから、振り払おうなんて思えなかった。


ドキン、ドキンと鳴る胸はあたしをギューッと締め付ける。


授業開始前の誰一人いない廊下。


あたしの時間は少し止まった。


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