____苺の季節____
「好き」って短い言葉を言うのに、どれだけの勇気がいるんだろう。


「伝える事が出来て良かった」


あの時の、紅林君の瞳は素直な光を灯してた。


伝える事が出来たなら。


あたしは、何かを恐れてる?


傷つくこと?


ううん、ただ、ずるくて臆病なんだ。


鳴海が、


「杏奈のこと好きだ」


そう言ってくれるのを待ってるのかもしれない。


そんなの思い上がりだよ。

人の心は移り変わる。


あの日の一目惚れも、熱いあの子の想いに、ひとかけらもなく消されてしまうかもしれない。


素直で可愛らしいあの子。

長く揺れる髪がよく似合ってたな。


マネージャーか。


いつも、側でアイツの走る姿を見つめていられるんだね。


羨ましい。

羨ましいよ。


あぁ、


ただ、素直に、

「好き」と言えたならいいのに……。

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