____苺の季節____
「起立!」

「礼!」

『お願いします!』


ザッと立ち、気合いの入った挨拶を叫び、ザッと座る。


我が部は、きびきびとした体育会系の雰囲気が強い。

指揮台に立つ、村井先輩は口元にゆるい笑みを浮かべて挨拶をした。


「村井です、あー、1年生の皆さんは初めまして……、

2年、3年の奴らは久しぶり!

元気だったか~」


気さくなトーク。身振り手振りを加え、自らの近況報告、コミュニケーションにより生徒の緊張をほぐしているようだ。


「それじゃ、1年自己紹介してってよ、はい、アンタから」


クラリネットパートの麻里ちゃんにタクトの先が向けられた。


次々と順が周り、あたしの番。

話そうとした瞬間、


「あれ?そこからボーン(トロンボーンの略)なの?

へぇー、アンタ、トロンボーン吹くの?ってか大丈夫なの?

アンタみたいな可愛らしい人、あんまりトロンボーンってイメージじゃないね、

フルートとかピッコロの方が似合うんじゃない?」


「……え、あの」


「あれ?

いや悪い意味じゃないんだよ、

俺もボーンだったけど、

中低音の楽器って、でかいし、肺活量いるでしょ、

勇ましい部分担当みたいな感じでしょ?

マーチングだって大変よ?
それ担いで吹きながら延々と演技するんだぜ、

アンタ、可愛らしいから」


あたし、バカにされてる?


「ぜ、全っ然! 可愛くなんかありません、

あたし、可愛くなんかありません!



トロンボーンだって吹けます、


あ、名前は星です、宜しくお願いします!」



楽器を握る手に力が入った。




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