____苺の季節____
バタンと、防音の分厚い扉を閉めた時、廊下の壁に腕組みしながら寄りかかってる村井先輩を見つけた。


眉間にシワを寄せ、ハミングしながら、指揮のイメージトレーニングをしているみたいだった。


あたしに気がつくと、


「あ?何?」


面倒くさそうに、ちらっと見る。


「すいませんでした!

失礼な態度を取って申し訳ありません」


頭を深く下げた。


スリッパを引き摺りながらあたしの前にくると、


「頭を上げてくれって、

すまん、謝るのは俺だ、

…その、良い音サンキューな」


頭をポン…と撫でて立ち去る。


「あ!!」

先輩が叫ぶ。


「え!」


「可愛いのはホント!

オトコいんのか?

いやいや、顔が良いのは得だよ、

酒が飲める年になったら、
飲みにでも行くか」


はぁ?

ニヤニヤ笑って音楽室に消えた。


何だっつうの?

はぁ?

何よ、もう!


だから、


あたし、可愛くないの!


あり得ない!


胸の中、掻き回されたみたいで、苛々しちゃう。


何度も、何度も地団駄を踏んだ。






< 62 / 180 >

この作品をシェア

pagetop