____苺の季節____
勢い良く見上げたあたしは、ドキンと苦しくなった。

だって、見たことない位の真剣な目をしてたから。


「あのさぁ…、杏奈、俺は杏奈しか見てないよ?

島谷や伊原や…、それに杉本だって、まぁ美人っていうか確かに凄い綺麗だよな、

でも、俺は杏奈が良い、

杏奈じゃなきゃ…、その、ダメなんだ、


お前さ、気付いてねぇかもしれないけど、

美人で整った目鼻立ちをしてるだけが可愛いんじゃないんだぜ?


雰囲気っつうか、うまく言えねーけど、

とにかく、杏奈の全てが可愛いと思う、

この髪も…、手も…鼻も…、目もホンット、すっげー可愛い」



「なる…み?」

「目、閉じて」

「…ん」


あたしの髪を指で少しすく。

優しく優しく包む温かさに体の力がなくなる。



これがあれば、全て、安心できる…、

そんな想いにとらわれちゃうのは、

どう…して?


鳴海……。



静かにゆっくり触れた唇は、あたしの体と同じ位熱くて柔らかだった。


夢…じゃないんよね?

あたし…、キス…してる。

目を瞑って、ふわふわと2次元にいる感覚。


温もりと鼓動だけが確かなものみたい。


鳴海が、少しキスを緩め一瞬離れる。


何も言わず再び重ねた唇。


あたしが、ゆっくりと溶けていく気がした。



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