____苺の季節____
テニスコートはうだる様な暑さ。


そして、不二子ちゃんが、大きなつば付き帽子に白い長手袋姿で登場したから、章子ちゃんは拳を握った。


「アイツ、自分だけあんな格好してよ、うちら全身焦げそうだってのに」


アンチテニス派、元ヤンの章子ちゃんは、その拳をラケットのガットにぶつける。


「まぁまぁ…仕方ないよ、不二子ちゃん、もうすぐ50だし…さ、うちら若者は…ね」


あたしの台詞に「ハハ…ッ」と皆は力なく笑う。



慣れない髪型にしたら、首の後ろがジリジリ焼けてるみたいに熱いなぁ。



日陰を探したくても、見当たらない。


ふー、辛い。


サーブ練習の順番を待ちながら、フェンスの向こうを見ると、体育でサッカーをしてる男子の姿が目に入る。


遠くても、鳴海はすぐにわかった。


軽やかな身のこなしで、ボールを自由自在に操ってる。


速いドリブル、脚力から生み出される豪快なシュート。


あたしは心奪われた。


格好良い。


凄くすごーく格好良い。



広いグラウンド。



夏の青く澄んだ空の下、太陽の陽を味方につけて、


輝く鳴海の姿は、とても素敵だった。


ピーッ!


ホイッスルが響き、次の瞬間見せたガッツポーズ。


あたしの口角も自然と上がってた。

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