山賊眼鏡餅。
『もしもし……』


「あの……その携帯、私が落とした物なんですが……」


『あ。そう』


「携帯、どこにありますか?取りに行きます」


『山』


「山って?」


『ふれあいとざんどうって書いてある山』


「フレアイとザンドー?」


『そう。頂上の鳥居の所にいるよ。じゃあ、今から来てね』


男はそう言うと電話を切った。




橘は、きょとんとした顔で私を見ている。



「電話、何だって?」


「山にいるって言われたんだけど。フレアイとザンドーって書いてある山……」


「それ、ここじゃね?」


「あ」



見ると、確かに、ふもとのバス停の裏に『ふれあい登山道』という看板がある。


どうやら、『ふれあい登山道』というのは大学の裏山の山道の名前らしい。




「なんだ。良かったじゃん。アネキ☆」


「うん」


「じゃ、俺、急ぐから、そろそろ行くわ」


「え」


「じゃーな!何かあったら電話して!」


弟は、そう言うと、バイクにまたがって、あっという間に消えていった。





山の中の鳥居に呼び出されたことに、何となく違和感を感じながらも、私は登山を開始した。
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