山賊眼鏡餅。
「さ。ミチコさんも食べてくださいよ」


平田にすすめられたが、私の胃にはこれ以上のポテトはきつかった。


「ごめん。こんなに食べたら飽きちゃうよ」


「こんな時のために秘密兵器があるんですよ」


「何?胃薬か何か?」


「ジャジャジャーン」

平田がリュックから取り出したのは、マヨネーズだった。



マイマヨネだ。



「わあ。平田先輩。それ、ヨード卵光のマヨネーズじゃないですか。先輩って、超グルメ!セレブですね」

目黒さんが歓声をあげ、早口でまくしたてる。



「ポテトにマヨネーズじゃ、余計胃にもたれる気がするよ」


「良いマヨネーズだから、胃にもたれませんってば」

平田が言う。



その声が結構大きかった。



悪そうな高校生が、一斉に私たちのテーブルに注目した。



みんな、半笑いの表情を浮かべている。

そして、その半数が携帯を構えていた。

マヨネーズポテトを食べる平田を写メで撮るつもりだ。



気付いた時にはシャッターの嵐だった。



私は、その中に、一人見覚えのある顔を見つけてしまった。

弟の橘が、バイクでひいてぺしゃんこにした自転車の持ち主だ。

鋭い目つきが印象的なので、よく覚えていた。



血の気が引くとは、まさにこのことだ。



私はあわてて顔を隠した。

平田と目黒さんも、さすがに写メ攻撃に気付いたみたいだ。



恥ずかしさで顔が真っ赤になっている。

「平田、出ようよ」

声をかけたが、平田は小刻みに震えていて、店を出ようとしなかった。
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