山賊眼鏡餅。
女の人の声……

ハジメのお母さんの声だ。

粉々になったドアを見て、悲鳴をあげたみたいだ。


どたどたと足音をさせて、ハジメのお母さんは、すぐに部屋にやってきた。



「ミチコちゃん!あなた何やってるの?!」

真っ青な顔をして、ハジメのお母さんが言った。


黒いワンピースを着て、髪は少し乱れている。


「すいません。いろいろあってこんなことに」


「ドアが壊されていたわ」


「そうなんです。実は……」


私の言葉を遮り、ハジメのお母さんは、また悲鳴をあげた。


木箱が押し入れから出ているのに今気付いた様子だ。


「ミチコちゃん、それ……!!」


「これ、何ですか?」


「何で出てるの!??」


「な、中に人が入ってるみたいで……」


「何でもないからはやく押し入れにしまいましょう!」

ハジメのお母さんは少し混乱しているみたいだった。


「でも、中に人が……。苦しんでいるみたいで……」


「中の人なんていないわ!」



そう叫んで、ハジメのお母さんは、やっと我に返ったみたいだ。


「と、とにかく、私は部屋の掃除をしないと……玄関の木屑を掃いたりとか……もうしわけないけどミチコちゃん、そろそろ帰っていただいて良いかしら」



「は……はい」

私は、ハジメのお母さんの言葉に、素直に従った。




とりあえず、山を降りよう。

そう思った。



木箱に人を入れるなんて、正気の沙汰ではない。

SMプレイの一種……でなかったとしたら、犯罪だ。



山の中腹に、いつもハジメと一緒にピクニックをしていた広場がある。

立入禁止の札の先だ。

そこに行ってみようと思った。

もしかしたら、ハジメがいるかもしれない。
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