山賊眼鏡餅。
「ミチコさ~ん、ノート返して下さいよぉ」



平田のうざったい声で、目が覚めた。


昼下がりの図書館。



私はあまりの眠さに、机に突っ伏して仮眠を取っていた。


ここ数日、平田に付きまとわれて迷惑している。





「平田、うるさい。無いものは無いんだってば」


「困りますよ~」




先日、平田にドイツ語のノートを借りたのだが、それが無くなってしまったのだ。


無くなってしまったと言うよりは、盗まれたと言ったほうが正しい。


駅の化粧室で、置き引きにあったのだ。


財布や携帯はメインのバッグに入っていたから無事だったが、教科書などを入れていたサブバックをまるごとやられてしまった。




「ミチコさん、困りますょぅ」


「私が一番困ってるってば」


「なんとかして下さいよぅ」


「もう、うるさいなぁ!」



平田のうざさには参ってしまう。




私は荷物をまとめて、図書館を後にした。



緑いっぱいで平和そうに見えるが、このあたりは、案外治安が悪い。


夜道を一人で歩いていて、ひったくりや痴漢にあったという話をたまに聞く。


駅前のロッテリアには、ギャルみたいなのがたまっているし、後ろ髪が長い子供が多い。


油断がならないこの町で、油断してしまったのが敗因だ。




置き引きにあって以来、すっかりテンションが下がってしまって、山にも行っていなかった。


今日は気候も良いし、一週間ぶりに山に登ってみても良いかもしれない。


山に行ったからといってハジメに会える確立は低いだろう。



でもハジメとの接点は山だけだ。


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