山賊眼鏡餅。
目が覚めると、まだ私は暗がりにいた。

背中にごつごつした岩の感触がある。


起き上がろうとして、初めて、自分が縛られていることに気付いた。


紐のようなもので、肩の下から足首まで、ぐるぐるに巻かれている。


「むきゅー!」


掛け声をかけて、思いっきり力をかけてみるが、紐はびくともしない。


まさに芋虫のような状態だ。

もそもそ動いていると、誰かが私に駆け寄ってきた。


フルフェイスだ。


フルフェイスは、私の口に薬のようなものを押し込んだ。

すぐに吐き出そうとしたが、鼻と口を手でふさがれてしまった。

縛られているので抵抗できない。

息ができなくて苦しい。

涙が出る。


私が窒息しそうになっているのがわかったのか、鼻をふさいでいた手がずらされた。

呼吸は出来るようになったが、その拍子に、口の中の錠剤を飲み込んでしまった。


体が痺れるような感覚があって、再び意識が遠くなった。

とぎれとぎれに意識がある状態だ。



男の声がして、紐が解かれたのがわかった。


コンバースを履いた足が私の顔をまたぐ。


体を揺すられる。


また男の声。


聞いたことのある声だ。



長い髪の後ろ姿が見える。

抱き抱えられてどこかに運ばれる。


男が何か話している。


この声は誰のものだったろう。


よく知っている声だ。



誰かが私の顔を覗き込む。


知っている顔だ。



意識が遠退く。


眠っては駄目だ。


でも体が言うことを聞かない。
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