山賊眼鏡餅。
山から降りると、東の空が明るくなり始めていた。

携帯電話で時間を確認すると、4時を過ぎたところだった。


確か、フルフェイスと遭遇したのが7時過ぎだった。

ずいぶん長い時間、山の中で意識を失っていたことになる。


ふらふらと道路を歩いていると、ホームレスに声をかけられた。


裾が黒くなったベージュのズボンに、灰色のTシャツが印象的だ。

髭の生えた黒い顔に見覚えがあった。


ししゃもさんだ。



「ししゃもさん!」

私が呼び掛けると、ししゃもさんは嬉しそうに言った。

「覚えててくれたかぁ」


ししゃもさんは、袋に空き缶をたくさん詰めて、自転車に乗っている。


「何してるんですか?」


「あぁな、こうやって缶を集めて持っていくとお金が貰えるんだぁ」


「お仕事ってこと?」


「そうだぁ。オレの仕事だぁ」

誇らしげに、ししゃもさんは言った。


ホームレスも仕事をするのだと初めて知った。


「あっ、そうだった。私、ペスを見つけたんです」


私が言うと、ししゃもさんは目を真ん丸にさせて言った。


「なんと!ペスが見つかったぁ!?」


「でも、途中ではぐれてしまって……」


「どこではぐれたんだぁ?」


「山です」


「おっと。山かぁ。そりゃまずいなぁ」


「広いもんね」


「いやぁ、この山には山賊がいるんだぁ」


「さ、さんぞく!」


ハジメたちのことだ。


「あくまでも噂だが、いるらしいんだぁ」


「山賊がいると何かまずいの?」


「人身売買したりしてるらしいんだぁ。オレ、恐ろしくて」


「人身売買!?」


「人を買ってきて、食ってるって噂だぁ。オレ、恐ろしくて」


「まさか!?」


「オレも詳しいことは知らないんだぁ」


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