山賊眼鏡餅。
私は必死で逃げた。
でも、うまく走れない。
恐怖のあまり、体に力が入らない。
足がもつれて、転んでしまった。
「ハジメ!やめて!」
私は必死に叫んだ
フルフェイスは一瞬ひるんだ。
やっぱりハジメだ。
「ハジメ、なんでこんなことするの!?お願い、やめて!」
バットが高く振り上げられる。
そんなもので殴られたら本当に死んでしまう。
「ハジメ、やめて!」
その瞬間。
鈍い衝撃音が響き渡った。
死んだ。
と思ってしばらく目を開けられなかった。
「ミチコ!」
ハジメが言う。
目を開くと、ハジメが私を抱き抱えていた。
ヘルメットは被っていない。
長い髪を一つに束ねて、黒いシャツを着ている。
「あれ……。ハジメ……」
視線をずらすと、道端にフルフェイスのヘルメットを被った黒ずくめが転がっていた。
「ミチコ、痛いところは無い?」
ハジメが言う。
「肩と膝と首が痛い」
「歩ける?」
「わからない」
ハジメは私の体を起こして、バス停のベンチに座らせた。
視界に再びフルフェイスの姿が入る。
フルフェイスはもぞもぞと動きだしている。
「ハジメ!捕まえて!」
私がそう言った時には、フルフェイスはすごい勢いで走り去ってしまっていた。
何が起こったのか理解するのにしばらく時間がかかった。