山賊眼鏡餅。
「最悪……」


思わず声に出してしまう程最悪だった。


「ははは」

笑い声。


「ちょっと、誰!?」


男の笑い声だ。


「吉川君?平田君?いるなら笑ってないで助けてよ!っていうか起こしてよ!」


「それ、誰?」


聞き覚えの無い声だった。

少なくても、サークルの男連中ではない。


「すいません、人違いでした……」


ただの通りすがりの人に、ハイテンションで叫んでしまったのだと気付いて、私は頬が熱くなるのを感じた。


だいたい、頭が下になって斜面に仰向けで倒れているので、すでに頭に血が上っているのだ。


「もしかして自分で起きられない?」


視界に男の姿が入った。


男が私の顔を覗き込んだのだ。


黒髪の長髪……黒いシャツ……めずらしい風貌だ。


顔立ちはかなりの男前かもしれない。



「じ、自分で起き上がれます」


「本当?」


気合いで起き上がろうと踏張ったが、なぜか腕に力が入らない。



「あれ」


「腕、ひねったんじゃない?」


男はそう言って私を抱き抱えるようにして起き上がらせた。


「あ……ありがとうございます」



改めて男の姿を見る。



黒いシャツに黒いパンツ。


黒いブーツに黒い革の手袋。




山歩きをする一般人には見えなかった。
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