山賊眼鏡餅。
「送るよ」


「え?」


「このへん、道、ないだろ」


「うん」


「また転がり落ちるといけないから、下まで送るよ」


「ありがとう」


「で、おんぶで良いかな?」


「おんぶ!?」


「斜面、急だから、多分その靴じゃ歩けない」


「確かにそうだけど……」



男は私に背を向けてかがんだ。



痴漢じゃないと良いな……私はそう思いつつも、男の行為に甘えることにした。



自力で山道を下るのは、どう考えても無理そうだったからだ。



細そうに見えるが、触ってみると筋肉質でしっかりした背中だ。



私は男に背負われ、山を降りた。



あっという間の出来事だった。



「着いた」


男はそう言って、私をバス停のベンチに座らせた。

山のふもとのバス停だ。



「ありがとう……」


私がそう言って振り向くと、男の姿はもう無かった。
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