山賊眼鏡餅。
「なんか、平田のお姉さんが元彼に貰ったやつなんだけど、使う前に別れちゃったんだって」


「へえ……」


「使う気になれないから、平田が貰ったんだけど、女物だから、使い道が無いらしくて」


「ミチコはブランド物、好き?」


「普通。自分で買おうとは思わないけど、欲しいとは思うよ。ハジメは?」


「あんまり興味無いな」


「そういえば、服とかってどこで買ってる?それどこの服?」



今日もハジメは黒ずくめだ。

黒いジーンズに、黒いシャツ。



「とある筋から仕入れてる」


「何それ。ネットとか?」


「ちょっと違うかな」


「っていうか、なんでいつも黒なの?似合ってるけど」


「掟だ」

ハジメは言った。



掟……




この間も、ハジメは、掟のことを言っていた。

ハジメの部屋で、ひどく酔っていたあの夜。

ハジメは、そこで、自分は山賊なのだと言った。



聞き間違いであって欲しい。

私はそう思って、あえてその話題を避けていた。


「山賊の掟だよ」

ハジメは、はっきりと、そう言った。


「山賊?」


「そう。山賊だ」


今日はお酒も入っていない。



「ハジメが山賊なの?」


「そうだ」


「っていうか山賊って何?」


「山賊は山賊だよ」


「どんなことするの?」


「山に住み、山に生きる。それだけだ」



ハジメはそう言うと、花の蜜をちゅっと吸った。
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