山賊眼鏡餅。
「大丈夫~?」


心配そうに声をかけてきたのは、真帆だ。

小柄で、可愛らしい顔立ちをしたボブヘアの女の子だ。

あまり同性に好かれるタイプだとは言えないが、異性からの人気はダントツだ。



今日も、いかにも男受けしそうなフリルの付いた真っ白なワンピースに淡い緑色のジャケットを合わせている。

そんな真帆の足元を見ると、ウエッジソールのサンダルだった。

全体が厚底になっている靴ならば、歩きやすさとスタイルアップが同時にかなう。

抜かりの無い女だ。



「あれ、腕どうかしたの?」


と、声をかけてきたのは、吉川ヨシオだ。

穴の空いたジーンズに、古着のTシャツに、なぜかビーサン。

少し季節が早いように感じるが、彼流のお洒落なのだろう。

お調子者だが、わりとハンサムということで、サークル内ではかなりモテているという噂だ。


「転んだ時に、捻っちゃったみたいなんだ」


私が言うと、間髪入れず、真帆が言った。


「えー!大変!冷やしたほうが良いんじゃない?私、ハンカチあるよ!ハンカチ!」


あからさまな、女の子らしさのアピールだ。

どうやら、真帆は、ヨシオに気があるらしい。

ハンカチを持っているという女の子らしさをもって、ヨシオからの好感度を上げようと思っているに違いなかった。


ヨシオはヨシオで、感心したような顔をして、真帆を見ている。


やれやれ。思わず心の中で呟いいてしまった。





5月の朝の風が、心地良い。



私たちは、駅から、それぞれの電車に乗り込み、家に帰った。
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