なまやさしい歌
口の中で泡が広がる。
水でゆすいで、歯磨き粉の味が消えるまで繰り返す。

ミントの爽快感を少し残して、手慣れた仕草でワックスを馴染ませる。
誰の為のワックス。
今はまだ、答えなんて無くていい。


念のため、部屋に戻って、財布に兄貴資金を追加した。

多めにあれば越したことはない。

鏡で確認する。

決してかっこよくないけど、そんな自分も嫌いじゃない。
兄貴がバイクで出かけて行ったみたいだ。



天気予報のお姉さんは夕方から雨が降ると言うので、悩みつつも、一応、透明なビニール傘を用意した。


『忘れ物ない?』


『平気、平気。行ってきまーす。』
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