オタク男子の恋愛学
■4月
└誘いと乙女心
入学して2週間も経つと、新入生なんて新鮮な空気も教室から消える。授業が始まったのはたった1週間前なのに、ずっと昔からここで授業を受けていたような感覚。
友達だってできたし、校舎の造りも覚えたし。中学校を卒業した時は「夢見てた高校生になれるんだ!」なんてドキドキしてたのに、いざ高校生になってみたらやっぱりわたしは"わたし"だった。
「ねえ、ゆーり」
「ん?」
ゆーり、こと大友優里(オオトモ ユウリ)。わたしはぼんやり窓の外へ向けていた視線を、教室に戻した。
いつの間にかすぐ傍に立っていた女の子へ顔を向ける。困ったような表情をするその子は、最近仲良くなったばかりの子。出席番号が並んでて、それがきっかけなんだけど。
神沢美羽(カンザワ ミウ)ちゃん。胸のあたりまでゆるりと伸ばした髪の毛は少しだけウェーブがかかってて、おっとりした美人さんだ。
性格も見た目そのままで、おっとりしていて大人っぽい。みんなが騒いでるのを横でにこにこしながら見てるような、そんな子。
それに比べてわたしは。
無駄に伸びた身長と手足。色気なんか全くないし、なんでも笑って済ませちゃうサバサバした性格。肩にかかるくらいの髪型のおかげでギリギリ女の子ってわかるけれど、これも中学2年まではボブだったおかげで色気どころか女らしさもない。
思わず、左隣の窓ガラスに映った自分の姿を見てため息をつく。
ないわ。ないない。
わたしが男だったら絶対にわたしは選ばない。断言する。
「ゆーり?」
一人百面相を繰り広げるわたしに、不思議そうに美羽がまた声をかけてきた。
「あ、ごめん!どうかした?」
慌てて再び窓ガラスから視線を逸らす。美羽は少しだけ迷ってから、「あのね…」と続けた。