僕らの背骨
第一章 田中真理
{11月1日 PM 4:21}
真理は少しでも母親から遠ざかりたい一心で、外へ出るなり走り出した。
真理の頭には目まぐるしく色々な考えが巡り、見開いた目と激しい呼吸の乱れで真理の表情は歪んでいた。
しばらくして足を止めると、真理はうずくまって呼吸を整えた。
自分の吐息と車が横を通過する音が重なり、激しい心臓の鼓動が最後に音として耳に伝わると、真理は顔を上げた。
別にどっちでも良いよ…、
父親がいてもいなくても…。
私の…、"私達の平穏"が壊されなきゃ、何も気にする事なんてない…。
真理はまだ封の切られてない手紙をバッグから取り出すと、その封筒の裏に書かれた差出人の文字を、睨み付けるように見つめた。
−父より−
どうして今更…。
もし母の話しが全部嘘で、何か事情があってそばにいられなかったのなら…。
呼吸が落ち着いても真理の頭の中はぐるぐる回っていた。
真理が今だに封筒を開けられずにいる理由は、ただその真実を見るのが怖いからではなく、今まで想い描いた完璧な父親像を今こそごく身近な存在として妄想し、期待に胸を膨らませて自らを慰める事が出来るからだった。
今までもこれからも"普通"でいたいと望んだ、悲しい自分を慰める為に…。
もう少しだけ…、
真理はまたも封筒をバッグに入れ直し、頭の中にある"完璧な父"を想像しながら、ゆっくりと歩き出した。
5分程して駅のホームあるベンチに座ると、真理は携帯で一人の"友達"にメールを打った。
−今ヒマ?これから"4dax"行くんだけどこない?−
送信して2分で返信が来た。
−りょーかい!いま神着だからあと25分くらい。−
相手は真理の親友とまでは言わないが、学校では割と話す間柄である。