僕らの背骨

「…なんで"神着(カミツキ)"って言うのかな?」
真理はこんな郊外の町の名などに興味はなかったが、紗耶の住んでいる町を紗耶が言うように否定するという事はさすがに出来なかった。

紗耶がこの町を否定するのと、真理が否定するのとではその"立場"に大きく相違があり、この町に住んでいない真理が言う場合には、それが悪口となってしまうのだ。

「知らないし!!普通自分が住んでる町の名前の由来なんて知らないでしょ!?」
紗耶は呆れた様子で真理に言った。

「そりゃそうだけど…、神着って名前"何か"ありそうな気がしない?」
真理は深く考えもせず何となく言った。

「大昔に何とかの神様がこの辺に居着いたとか…、そんな感じの?」
紗耶は言った。

「そうそう、そんな感じの!ていうかそのまんまじゃん!!それが正解なの?」
真理は言った。

「だから知らないよ!!(笑)町名の由来どうでもいいよ!!」
紗耶は笑って真理の肩を軽く叩きながら言った。

「どうでもいっか!!ていうか紗耶んち遠くない?」
すっかり紗耶と打ち解ける事が出来た真理は、その喜びを表情に出す事なく言った。

本当だったら真理はこの喜びをはっきり言葉にしたり、表情に表したりしたかったのだが、今日紗耶を呼び出したそもそもの目的がそんな真理の感情に蓋を閉じているのだった。

「もうすぐそこ。…ほらっ、あそこのマンション。」
紗耶の指さした先には、郊外には似つかわしくない豪華で大きなマンションがそびえ立っていて、近隣の公団住宅を嘲るように、そこから無数の光りを放っていた。

「…超デカくない?何階まであんの?」
比較的裕福とも言える一軒家で育った真理だったが、今は単純に建物の大きさに圧倒されてしまい、まるで小さな子供のようにはしゃいでいた。

「最上階が20階。」
紗耶は友達を連れて来る度にその質問をされるらしく、特に嫌みもなく馴れた様子でそう答えた。

「へぇ〜…、紗耶んちは何階?」
真理は近づく度に大きさを増すそのマンションを見上げながら聞いた。

「…20階。」
さすがにこの答えを嫌みなく言うのは難しいらしく、紗耶は少し得意げにそう答えた。

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