僕らの背骨
再び辺りに携帯の着信メロディが響き渡ると、美紀はその内容を読むと同時に歩き出した。
美紀が不意に歩き出した方角が莉奈に向くと、慌てて莉奈は物影に隠れた。
通り過ぎた美紀を確認すると、その方角はまた駅の方へと向かっていた。
自宅にはいなかったのだろうか…。
美紀が真理と別の場所で待ち合わせたのなら莉奈は安心出来たのだが、残念な事にそれを知る術はなかった。
また尾けるしかないか…。
莉奈はこんな自分の行為を恥ながらも、渋々美紀の背後から後を尾けた。
莉奈の予想通り美紀は駅へと入り、また改札を抜け、先程と同じ路線の上り電車のホームで立ち止まった。
美紀は辺りを見回すと、ホームに設置されたベンチに腰掛けた。
何度も券売機に手間を取られながら、莉奈はようやく美紀が視界に入る場所まで来た。
そして改めて美紀の姿を確認すると、莉奈はその美紀の様子に困惑した。
美紀は自身の腕を強く抱き、うずくまるように下を向きながら泣いていた…。
これは失恋をした者には当然の光景であるはずなのに、莉奈はその美紀の心情を理解していなかった。
つい数時間前に恋する男性に拒絶され、自身の尊厳を傷つけられた…。
ただフラれた訳ではない…。
自らを犠牲にして尽くした相手に、あっさりと捨てられたのだ…。
女性にとってこれ以上の屈辱はない…。
あんな男に…。
相手の総合的な魅力というのは、別れた後にやっとその全体像を現す。
男性にありがちな肉体的な順応の先にある拒絶は、別れた後に欲する感覚によって後悔を生む。
新たな対象の矛先が定まらない場合、男は過去の対象に執着し、その相手の魅力を再認識する。
しかし女性に多いのは別れた後に相手のルックスや性格を改めて採点し直し、あからさまに落第点だと感情を向けていた自分に後悔し、二度とその感情が戻る事はない。
それを踏まえて言えるのは、美紀は今まで落第に値する対象に感情を向けていて、そんな恥ずべき対象に見事捨てられた。
もちろん田辺のような劣悪な男はいずれ美紀への順応が消え、捨てた自分に後悔する。
美紀のようにルックスが良く、男性にモテる女性なら尚更である。