僕らの背骨
しかし美紀の中でその採点が成されるのはまだ時間が必要で、今はただ溢れ出す孤独感を胸で押し殺す事しか出来ない…。
こうして腕を抱きながら、美紀はそんな感情の起伏に堪えていた。
しばらくして電車が来ると、美紀はベンチからゆっくりと立ち上がり、電車に乗った。
その姿を確認してから莉奈はまた美紀が乗車した車両の一つ隣の車両に乗り込んだ。
莉奈がその時感じた過去の残像は、…誠二の横顔だった。
莉奈からの批判を唇の動きで理解し、その別れを決意していた横顔…。
あの時莉奈にその誠二の心情が理解出来たのなら…、莉奈は決して誠二を離しはしなかっただろう。
誠二の"告白"に賛同する事は無理でも、時間を掛けて莉奈自身の正論を理解させる事は出来たのかもしれない。
仮にそれが無理でも、誠二との別れを莉奈が承諾するはずもなかった。
その理由として二人には否定出来ない"感情の共有"が存在していた。
莉奈には誠二を想う気持ちがあって、誠二にも…、莉奈目線からは少なくともその感情があった。
ふと見せる誠二の優しい擁護の視線…。
照れ笑いをしながら触れた指先…。
全ては誠二の擁護の先に行われた行為であり、決して莉奈の一方的な求愛ではなかったのだ。
あの告白の瞬間も、最後まで誠二は莉奈からの理解を求めていた。
仮に誠二の中でその告白が全てだったとしたら、莉奈に理解を求める必要もなかった。
誠二自身、莉奈との感情の共有を大切にしていたからこそ、その対象である莉奈からの理解が欲しかったのだ。
賛同ではなく、"理解"を…。
莉奈はふと誠二の行動を許せそうな気がした。
莉奈が思う誠二の背景は、やはり普通なら精神をも壊してしまう程の存在で、決して未成熟な少年が一人で抱え込めるような一種の"悩み"等ではないのだ。
人生を掛けてその真実と向き合い、やがて理解しなければいけない…。
誠二の"障害"を抜きにしても、それは長く辛い時間なのだ…。
恐らく誠二はその背景の共有を誰かに求めたかったのだ。
自分とは別の"同じ立場"にいる人間が存在して、それを知らずに生きているのだとしたら…。
誰でもその共有を望み、自らの痛みを半分にしようとするだろう。