僕らの背骨
そう…、誠二にとってのその共有者、"田中真理"こそがこの世界で唯一誠二の痛みを半分に出来る人間なのだ。
莉奈はやっとその事実に気付いた。
自分では駄目なんだ…。
莉奈の立場でどう誠二を支えても、それは大きな壁を隔てた偽りの擁護なのだ。
本当の意味で誠二を擁護し、理解し、そしてその痛みから解放出来るのは田中真理だけ…。
しかしそれは求愛の擁護ではなく、飽くまで背景の擁護であり、決して誠二が莉奈を拒絶する必要はない。
だからこそ誠二は莉奈に全てを話し、その理解を求めたのだ。
その時、莉奈は拒絶した自分に初めて後悔した。
莉奈は誠二の痛みを理解しながら、それを軽減させようとはしなかった。
"辛いからって他人にそれを押し付けるのは良くない…。"そんな他人事で莉奈は誠二を孤独にさせ、結局は自分本意の発言で怠惰な求愛を優先していたのだ。
そう、莉奈は誠二を救おうとはしていなかった…。
自分の感情が大切で、相手の痛みをそのまま継続させようとした。
一人で抱えられるような事じゃない…。
そう理解していたはずなのに…。
莉奈は開いたドアを見つめた。
ここで降りれば、
誠二の邪魔にはならない…。
これ以上誠二を孤独にさせたくない…。
莉奈はそう思った。
そしてドアの方へ一歩足を進め、その誠二の痛みからの解放を願った。
どちらにしろ、もう誠二は真理に会っているかもしれない…。
それで良いんだ…。
誠二が楽になるなら…。
ふと莉奈はドアの前で足を止めた。
もし、誠二の言う真実が違ったら…?
それは共有ではなく自己犠牲の"強要"だ…。
まるで異なる誠二の告白の結果はその事実の相違で新たな孤独の痛みを生む。
やはり誠二ではない…。
告白すべき人間は、その事実を知る唯一の人間。
"田中秋子"だ…。
莉奈は閉まるドアから一歩後ろに下がり、誠二の告白を止めようと決意した。
真理が自宅にいない以上、誠二にも真理の行方をたやすく認知する事は難しいだろう。
まだ遅くない…、
まだ止められる…。
莉奈はまた美紀に視線を移し、真理との接触を待った。