僕らの背骨

数分して電車がとある都心の駅に止まると、美紀は寒風の吹くホームに降り立った。

階段のある方向を確認すると、莉奈は美紀の姿を目で追いながら電車を降りた。

先程よりも外気温は下がり、莉奈もつい腕を抱えながら美紀の後ろを歩いていた。

ホテルの最寄駅よりも栄えていたその駅はショッピング街であり歓楽街でもある事から、こんな遅い時間でも混雑していた。

再度東京の人の多さに困惑しながらも、莉奈は素早く精算機の方へ向かった。

あまりの混雑で美紀を見失う不安があったが、美紀は都合良く改札を出てすぐ足を止めた。

その美紀の行為は一瞬莉奈を安心させたが、次の瞬間に美紀が制服姿の女生徒に話し掛けるのを見ると、胸が高鳴った。

その女生徒は美紀と同じ制服を来ていて、莉奈から見る限り雰囲気的には美紀の友達らしかった。

その二人は数秒雑談を交わすと、一緒に歩き出した。

間違いない…。

あれが田中真理だ…。

しかし、あの真理の様子から誠二と接触したかどうかを判断するのは微妙だった。

真理は少し物思いにふけるような表情で駅構内を見回し、まるで美紀とは別の"誰か"を探しているようにも見えた。

まさか…。

莉奈は誠二との接触を可能性として考えたが、あの告白の後に友人に会う気力があるだろうか…。

いずれは誰かに相談する事かもしれないが、その当日にというのは人間の心理を考えたら不自然とも言えた。

普通なら自分なりにその解釈を何度も繰り返し、その後一人で悩み疲れた後に誰か心許せる相手に話す方が自然だろう。

もしかしたら…、接触はしたが、内容の全貌を明かさなかったのかもしれない。

誠二も莉奈と同じ未成熟な年齢で、あの複雑な背景を全て理解させるのは難しい。

初対面なら尚更で、内容が内容だけに誠二が不審者だと認識される恐れもある。

しかも誠二は耳が聞こえず、筆談での会話となる。

仮に接触があったにしろ、短時間でスムーズに誠二の意図が伝わるとは考えづらい。

きっとまだ間に合う…。

莉奈はそう思い、二人の後を尾けた。


雑踏を照らす微細な光りの粒は、不安に苛まれている莉奈を僅かに勇気づけ、その先にある未知の結果が少しでも正しい事であるようにと…、莉奈に願わせた。

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