僕らの背骨

莉奈はそんな推測をしながらまたゆっくりと歩を進め、入口を覗いた。

美紀は先程の場所にはおらず、受付で何やら真理と会話をしていた。

その二人の立ち位置と表情から察して、やはり美紀のあの性格による金銭問題が発生していたようだった。

恐らく美紀はお金がないからどこか他所へ行こうと言い出し、真理が今日くらいはと説得したのだろう。

美紀がメールの時点で真理に田辺と別れた事実を伝えていたのなら、真理が美紀を説得するのはさほど難しい事ではなかっただろう。

女同士が助け合う最も大きな事柄は、まさしく恋愛での悩みなのだ。

男に捨てられたばかりという分かりやすい境遇で、友人からの助けを拒絶する卑屈な女性はいないだろう。

短時間で美紀の性格を知り得た莉奈には、たやすくそれを想像出来た。

分かりやすい失恋と言えばそれまでだが、その現場を実際に目撃した莉奈に、美紀のそんな張り裂ける想いを理解出来ない訳がない。

美紀と真理は受付で手続きを済ませた後、エレベーターに乗って行った。

莉奈は取り敢えず店内に入り、今自分がどうするべきかを考えた。

一つ一つ部屋を見て回れば二人を探し出すのは簡単だが、美紀がいては接触は出来ない…。

しかし受付から呼び出してもらうのも不自然だろう。

もし美紀が真理に付いて来てしまっては同じ事だ。

真理がトイレに行くのを待つか…。

短時間しか猶予はないが、トイレなら邪魔をされる心配はないだろう。

多少真理がトイレから戻るのが遅くても、せいぜい10分以内でならわざわざ心配で見に来るという事はないだろう。

確実に美紀に姿を見られない事を優先するなら、5分…、それが的確な時間の猶予だ。

莉奈は自分がすべき事を再度胸で捉え、真理に会う決意を固めた。

莉奈はエレベーターに近づと、止まった階を確認した。

3階…。

ゆっくりエレベーターのボタンを押し、莉奈はもう後へは引けない行動の果てを覚悟した。

その瞬間から全ては無音で景色を変え、莉奈の行く果てを暗い影で覆っていた…。



これが莉奈と真理の出会いであり、
この"15才達"の悲しき交差である…。

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