僕らの背骨

「で?さっきの"ちょっと"って何?」
美紀は急に真顔になり、そう言った。

「…ちっ、覚えてたか。(笑)私も今日…、なんか変な人に会ってさ…。」
真理は諦めたように言った。

「男?」
美紀は興味ありげにそう聞いた。

「うん…、なんかその人耳が聞こえない人で、メモに書いて私に伝えてた…。」
真理は言った。

「何それ?なんて言われたの?ていうか全然知らない人?」
美紀は俄然興味を示して真理にそう聞いた。

「全然知らない人。なんか…、その人が何を言いたかったのか良く分かんなくて…。ていうかメモの内容もあんまよく覚えてない…。」
真理はメモのある程度の内容は記憶していたが、それを美紀に言うのはまだ早過ぎる気がした。

「はぁ!?そこ重要じゃない?何なのその人?別にナンパとかじゃなくて?」
美紀はその要点を確かめようとした。

「ナンパではなかったと思うけど…。でもなんか超カッコイイ人だった!あれが普通のナンパだったらよかったんだけどね…。」
真理は苦笑いを見せながらそう言った。

「でもなんか怖くない?意味分かんないような事言ってきたんでしょ?」
美紀は言った。

「まぁ確かに…。」
真理はその時の光景を思い返した。

誠二が"下"で必死に自分に理解してもらおうとメモを見せていた時と、駅で腕を掴まれた時。

どちらの時も誠二は至って真面目に、そして誠実そうな目で真理に何かを伝えようとしていた。

伝えたい事…。

仮にそれが突拍子もない虚偽だったにしても、恐らくそれは誠二にとっての真実で、少なくとも聞くに値する物だったのかもしれない…。

真理は誠二のあの誠実なる瞳を見て、あの男が無意味な嘘をつくような人間とは思えなかった。

そしてそれ以上にあの亡き父からの手紙の存在が、誠二をただ偶然現れた変質者とは認識させなかったのだ。

何か繋がりがあるのでは…、真理はそう思い、まだバッグの中にある手紙を意識した。

何が書かれているのだろう…。

本当に父が書いた物なら、真理の母親は15年もの間真理に嘘をついていた事になる…。

秘密…、
その事なのだろうか…。

父の存在を隠していた事?

じゃああの耳の聞こえない男は誰?

一体なんの関係が…

< 109 / 211 >

この作品をシェア

pagetop