僕らの背骨
「で?さっきの"ちょっと"って何?」
美紀は急に真顔になり、そう言った。
「…ちっ、覚えてたか。(笑)私も今日…、なんか変な人に会ってさ…。」
真理は諦めたように言った。
「男?」
美紀は興味ありげにそう聞いた。
「うん…、なんかその人耳が聞こえない人で、メモに書いて私に伝えてた…。」
真理は言った。
「何それ?なんて言われたの?ていうか全然知らない人?」
美紀は俄然興味を示して真理にそう聞いた。
「全然知らない人。なんか…、その人が何を言いたかったのか良く分かんなくて…。ていうかメモの内容もあんまよく覚えてない…。」
真理はメモのある程度の内容は記憶していたが、それを美紀に言うのはまだ早過ぎる気がした。
「はぁ!?そこ重要じゃない?何なのその人?別にナンパとかじゃなくて?」
美紀はその要点を確かめようとした。
「ナンパではなかったと思うけど…。でもなんか超カッコイイ人だった!あれが普通のナンパだったらよかったんだけどね…。」
真理は苦笑いを見せながらそう言った。
「でもなんか怖くない?意味分かんないような事言ってきたんでしょ?」
美紀は言った。
「まぁ確かに…。」
真理はその時の光景を思い返した。
誠二が"下"で必死に自分に理解してもらおうとメモを見せていた時と、駅で腕を掴まれた時。
どちらの時も誠二は至って真面目に、そして誠実そうな目で真理に何かを伝えようとしていた。
伝えたい事…。
仮にそれが突拍子もない虚偽だったにしても、恐らくそれは誠二にとっての真実で、少なくとも聞くに値する物だったのかもしれない…。
真理は誠二のあの誠実なる瞳を見て、あの男が無意味な嘘をつくような人間とは思えなかった。
そしてそれ以上にあの亡き父からの手紙の存在が、誠二をただ偶然現れた変質者とは認識させなかったのだ。
何か繋がりがあるのでは…、真理はそう思い、まだバッグの中にある手紙を意識した。
何が書かれているのだろう…。
本当に父が書いた物なら、真理の母親は15年もの間真理に嘘をついていた事になる…。
秘密…、
その事なのだろうか…。
父の存在を隠していた事?
じゃああの耳の聞こえない男は誰?
一体なんの関係が…