僕らの背骨
「マジで!?紗耶んち金持ちじゃん!!」
まるで意外だとでも言いたげに真理は言った。
真理も紗耶も有名私立中学に通ってはいるが、決して生徒の全員が金持ちという訳ではない。
実際に中流家庭以下の子供は多くいて、真理の親友である"清水美紀"も借家住まいである。
もちろん真理にしてみれば友情に貧富の差などは関係ないが、それは飽くまで富裕層からの目線である。
それを真理に気付かせた一つの出来事として、美紀が一時期家計の事情で小遣を大幅にカットされた事があった。
それによって美紀は遊びに行った先では毎回のように飲食代に困り、次第にその真理との貧富の差を恥じたのか、遂には外出すらしなくなってしまったのだ。
真理は悩み抜いた末に、自分の小遣を美紀に半分分け与えるという短絡的な答えを出した。
そして学校の休み時間にその提案を聞いた美紀は、当然憤慨して『もう親友じゃない!!』と真理に怒鳴った。
元々大親友だっただけに、仲直りをするまでにそう時間は掛からなかったが、そんな現実を理解する上で、真理にとってはほろ苦い経験となった。
真理はその一件から、金銭と友情は溶け合わない"水と油"だという事実に気付き、決して傷つけてはいけない人の自尊心には、何より気を遣うようになった。
しかし、今こうして真理が紗耶を"金持ち"と呼んだ事は、決して真理のうっかり出てしまった差別発言という訳ではなく、先程の紗耶の町の住まいについての悪口の条件と同じで、境遇に相違があれば差別になり、また悪口にもなる。
そして同じ立場にいる人間なら称賛になり、共有出来る意見にもなるのだ。
真理はそれを感覚で理解し、この他人との共存方法を自身の成長と共に学んでいたのだった。
「真理お腹空いてる?」
広いロビーを抜けエレベーターに乗ると、紗耶は優しく真理に聞いた。
「…空いてる。」
真理は姑息にもこのまま夕飯をご馳走になる流れに気付き、既に期待に胸を膨らませていた。
「ママがさぁ…、友達連れて来るならご飯作るってさっき電話で張り切ってたから、…一応食べてあげて。」
紗耶はまるで頼み事をするような表情で申し訳なさそうに言った。
「…えっ、良いの?」
真理は白々しく遠慮がちな顔を見せながら言った。