僕らの背骨

「何それ?」
美紀は真理が手にした手紙を見てそう言った。

「…うん、"パパ"から…。」
真理はその表現に深い意味を持たさずに言った。

「…えっ?真理ってお父さん死んでるんでしょ?」
美紀は過去に真理から家族構成を聞いていて、当然その発言に疑問を持った。

「私も…、そう思ってたんだけど…、今日うちのポストに入ってた…。」
真理は手紙の裏に書かれた"父より"という差出人名を美紀に見せた。

「これって…、いたずらとかじゃなくて?」
美紀は言った。

「まだ読んでないから、分かんない…。」
真理はそんな臆病な自分を少しでも理解してもらう為に、分かりやすく俯きながらそう言った。

「まぁ、分かるけどさ…。ていうかいたずらだったらほんと趣味悪いよね…。でも、取り敢えず読んでみないと分からなくない?」
美紀は真理の気持ちを理解しつつも、当然避けては通れない中身の確認を促した。

「…うん。」
真理は手紙を見つめながら呟いた。

いたずらであって欲しいのか…。

それとも本当に父であって欲しいのか…。

真理がその望む選択を得られたとしても、どちらであって欲しいのかは即断出来ないでいた。

いたずらであったのなら、今日という日に起きた平穏ではない出来事が全て偶然だったと納得出来る。

しかし、もし本当に父からの手紙だったのなら、この15年間の真理の人生は母の嘘で塗り固められた偽りの時間という事になる…。

隠されていた真理の影の背景が、もし今後の人生を全て暗く塗り潰すような物だったら…。

真理はやはり恐れていた。

決して開けてはならないパンドラの箱を手にした時点で、真理の平穏はすでに壊され、姿形を変えていた。

時間は戻らない…。

仮に戻れたとしても、一体自分をどの瞬間に戻せば良いのか…。

結局は真理の人生が誕生した瞬間から、その平穏はなかったのかもしれない…。

ただ偽りの背景に怠惰にも包まれ、その保身の為に追求を怠った為、事実存在していた影の部分が仮の姿で漂っていただけのでは…。

母のその"嘘"によって…。


真理は心を決めたように目を見開くと、ゆっくりと手紙の封を開けた…。

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