僕らの背骨
{田中幸雄からの手紙}
真理へ
すまない…。
私はお前への気持ちをその言葉以外でなんと表現したら良いのか…。
ただ一つだけ言っておきたいのは、お前の母親である秋子は、"何も悪くない"という事だ。
全ての原因は私の未熟さ故だ…。
私は今まで、身勝手な自らの行動で沢山の人を深く傷付けた。
妻も、同僚も、兄弟も…。
そしてお前にこんな手紙を送りつけ、また傷付け…、困惑させている。
すまない…。
本当にすまない。
出来る事なら、このままお前には静かな生活を送らせてやりたかった。
しかし、私の罪は何よりも重く、ただの時間経過で許される事ではなかったんだ。
その私の罪で、
またお前を傷付けてしまう…。
こんなにも心苦しい事はない。
しかし、説明せねばなるまい。
その罪を…。
お前がまだ生まれる前、秋子と私は険悪だった。
何より子供を欲しがっていた秋子は、私が優しさを見せる度にそれを偽善だと決めつけた。
"子供が出来ないのは妻である私のせいだ。"
"あなたはそれを怒っている"と…。
私も子供は欲しかったが、秋子以上に必要な存在などなかった。
妻さえいてくれれば、
それだけで幸せだった…。
しかし、大きく差を広げた感情を私は修復する事が出来なかった。
会話もなく、家は冷めきっていた…。
今思うと、私は心の寄り所を探していたんだろう。
その後私は孤独なる自分を哀み、ふと優しく接してくれた"夏美"という女性と深い関係になった…。
やがて夏美は妊娠し、私は秋子と別れる決心をした。
しかし…、
人生とは皮肉なる"均衡"がある。
夏美の妊娠を知った数カ月後、秋子は今まで見せた事のない満面の笑顔で私にこう言った。
"赤ちゃんが出来たの"…。
それが真理、お前だ。
私にはそんな秋子を捨てる事など出来なかった。
"これで私達は幸せ。"
"何も障害はない。"
そんな満ち溢れた幸福感を表現していた秋子を、私は不憫に思った。
すでに秋子への愛を失っていた私だったが、結局その生活を継続させた。
しかし夏美は私を愛していた…。