僕らの背骨
そして私も夏美への感情を捨てきる事が出来ず、曖昧な言葉で夏美の愛を受け入れた…。
夏美はそれでも良いと言った。
"自分と子供をいつまでも見守っていてくれれば"と…。
私は夏美に生活費を払う度に、心が痛んだ。
夏美のような内面からも美しい女性が、私などの"愛人"になっている…。
私にはそれが耐えられなかった。
秋子に全てを打ち明けよう…。
私はそう思った。
しかしその"均衡"は、私からの告白すらも許さなかった…。
夏美は次第に大きくなるお腹に現実的な今後の不安を拭い去れず、とある日…、夏美自身が秋子に全てを話した…。
二人には何の罪もない。
私という醜悪な罪人にその身を汚されただけだ…。
見守る事など出来ない…。
私は消えよう…。
二度と二人を傷付けない為に、
どこか遠くに…。
そしてあの"火事"が起きた日、私は姿を消した…。
翌日の新聞にはこう書かれていた。
製薬会社社長、"焼死"…。
私はそれを見て涙を流した。
もう誰も傷付けまいと私は姿を消したのに、そんな私を心配して自宅に来ていた弟が…、その火事の巻き添えになり、…死んだ。
私という"身分"を背負って…。
そして…、夏美までが…、その"私の死"に耐え切れず、自らで命を絶ってしまった…。
これが私の罪だ。
まだ15才であるお前に、全てを理解する事は難しいだろう。
しかしこの罪はその重さによって根深い"真実"を掘り起こそうとしている…。
私のもう一つの罪、
"誠二"という息子によって…。
私は今でも身分を偽ったまま生活をしている。
これは私自身がその罪を忘れない為だ。
私の身代わりとなって死んだ弟の身分で、私はずっと夏美と私の間に出来た息子を育てていた。
つまり、誠二は今でも私を"叔父"だと思っている。
それで良いんだ…。
私には父親の資格などない…。
もちろんお前にも、今更父親の権利を求める事など出来るはずもない。
ただ、分かってくれ…。
全てはお前達の為なんだ。
どうかお前達は幸せになって欲しいと、私はそればかりを考えている…。