僕らの背骨

だからこそ…、
誠二の"話し"には耳を貸さないでくれ。

誠二はお前に会うつもりだ。

11月1日、
お前の15才の誕生日に…。

どこで誰からそう聞いたのか…、誠二は父親を"殺された"と思っている。

お前の母親…、
秋子に父を奪われたのだと…。

あの火事は飽くまで事故だった。

実際、警察の捜査でも放火の疑いはないと判断された。

恐らく誠二は背負ったその生い立ちに耐え切れず、そんな妄想で自分を支えていたんだろう…。

だから誠二の言う事は全て真実とは異なる。

決して信じないでくれ。


そして秋子にこの手紙の事をどう伝えるか…、それはお前が決めてくれ。

私は隠せなどと言える立場ではない。

秋子に話すなら、
…ただ"すまない"とだけ伝えてくれ。

もし真理よりも先に、秋子がこの手紙を読んでいるのなら、真理に…、誠二の事だけを伝えてあげてくれ。

その男を信じるなと…。

それが真理にとって、一番良い事なんだ。


長い手紙になったが、どうか理解して欲しい。

悪いのは私で、真理や誠二には何の罪もない。

もちろん秋子や夏美も、私という人間のせいで"被害者"となってしまった…。


最後に一つだけ、


どうか負けないで欲しい、
その孤独に…。



−田中幸雄−




真理は声を押し殺し、啜り泣くように涙を流していた…。

「真理…?」
ずっと沈黙のまま真理が手紙を読み終わるのを待っていた美紀は、真理の心情を察して優しく名前を呼んだ。

「…………。」
真理は黙っていた。

ただ溢れ出る涙を堪えもせず、その紛れも無い父からの手紙に心を痛めた。

それは今さら父親の権利を主張するような内容ではなく、今でしか話せない父からの必要な告白だった…。

真理をこれ以上傷つけない為の…。

しかし手紙に綴られていたように、この手紙が送り付けられた時点で真理は困惑し、今までの人生では想像も出来ない程の痛みを真理は感じていた。

"誰も悪くはない"…、

そんな言葉で真理の傷ついた心が和らぐはずもなく、許される事のない父の罪を、真理はただ認知するだけとなった。

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